サーバー設計・構築
サーバー更新を契機に最新のストレージを活用
基幹系システムのバッチ処理時間を1/3に短縮
この事例は、IBM i OSユーザーが、サーバー更新を契機に最新のストレージを活用することで、処理時間を劇的に短縮した事例である。 A社ではこれまで、基幹システムの夜間バッチ処理に9時間かかっていた。しかし経営層から短時間での経営分析データ提供の要請が高まり、早期に対応する必要がでてきた。また、グローバル事業の拡大のために、基幹システムの強化も急務となっていた。そこで、2006年に導入したサーバーIBM System iの更新をきっかけに、高速データ処理を実現できる基幹システムの検討を始めた。
提案
TCSでは、A社の要望を満たし課題を解決できるシステムに必要な要件を、様々な点から検討した。
A社は基幹システムにハイエンドのIBM System i を採用しているため、サーバーにはIBM Power Systems (以降Power Systems)E880を選定。そして、今回のA社の課題解決には、システムパフォーマンス解析の結果等からIO(Input-Output)パフォーマンスの改善が効果的であるだろうと仮説を立て、その仮説を検証するために、いくつかの製品を選定して比較するベンチマークテストを実施した。
日本アイ・ビー・エム株式会社(以降 日本IBM)の協力の下、下記3パターンの製品の組み合わせで、A社の実データを使用し夜間バッチ処理と同じ設定でのベンチマークテストを実施した。
Power Systems+内蔵ストレージ
Power Systems+Storwize(All SSD仕様)
Power Systems+FlashSystem
IOのスループットでは、Power Systemsの内蔵ストレージがビジー率50%を超える(ビジー率の推奨率は30%以下)結果だった。Power Systems+Storwize(All SSD仕様)も高いパフォーマンスであったが、Power Systems+FlashSystemでは、性能値である100万IOPSという非常に高速な値の恩恵をうける結果となった。この結果を受けてA社は、今後の事業拡大も見据えIOサブシステムの性能が向上し、メモリーアクセスやCPU能力の向上したPower Systems+FlashSystemを選択した。
大幅な短縮時間
Power Systems+FlashSystemの新しい基幹系システムにより、夜間バッチ処理にかかっていた時間が9時間から約3時間へと大幅に短縮された。
その結果、翌朝にはBIツールによる日次分析レポートを経営層に提出することができるようになった。BIツールの運用に関してもIOパフォーマンスとLPAR運用の改善によって分析時間が70%削減。それにより、これまで長時間かかっていた分析が日中に完了でき、結果の確認をできるようになった。加えて、FlashSystem導入によってBI用サーバーの増強や追加ライセンスが不要になるという副次的なコスト削減効果も生まれた。また、バッチ処理時間の短縮によって、システムのユーザー解放時間の延長が可能になったため、月末のデータ入力トランザクション処理の漏れもなくなった。
これにより、経営層から強く要望されていた正確な経営データの提供が可能になったのだ。
メリット
導入当時、FlashSystemはSystem i のOSに直接つなぐことができないという制限があった。そのためSAN Volume Controller(以降SVC)を経由するシステム構成としたが、このSVCを利用したことが結果的に多くのメリットをもたらした。
バックアップ時間の短縮
SVCによる仮想ストレージ環境とFlashcopyを利用したバックアップは、非常に短時間のシステム停止で済むようになった。基幹系システムなのでフルバックアップを行いたいのだが、全データをテープなどにバックアップすると10数時間を越える時間が必要となってしまう。しかしSVC環境であればあればFlashcopyで仮想ディスクにコピーし、別途テープでバックアップすることでシステム停止時間を最低限に抑えつつ、データ保全を確実に行うことができる。
Flashcopyによるバックアップには静止点が必要だが、FlashSystemはIOパフォーマンスが良いこともあり、再起動(IPL)も非常に高速でバックアップ時間の短縮に役立っている。通常のストレージであれば15-20分ほどかかるIPLが約2分で完了し業務利用が可能になる
今後計画しているDR構築の基礎づくり
SVCによるFlashSystemの冗長化とFlashcopyによるバックアップは、バックアップ時間の短縮だけではなくデータ復旧時間の短縮も可能にした。システム運用の重要な業務である障害発生時のデータ復旧業務では、ディスク全障害という大規模障害が発生した場合でも対応可能となった。リモートコピーを併用することでディザスタ・リカバリ(DR)対策にも活用できるようになり、より強固なシステム基盤の基礎となった。
プライベートクラウド環境の提供
仮想ストレージ環境によりディスク構成を柔軟に構築できるため、社内ユーザーの要望に応じてディスク容量の変更や配布が、いつでも簡単に実施できるようになった。新規ビジネスのためのシステム環境構築も迅速に対応できるため、A社が計画している事業拡大の戦略に大きく寄与している。FlashSystem採用による高速な開発環境の実現も新規ビジネス用のシステム構築に非常に役立っている。
既存機器も利用しTCO削減するシステム構築
SVCにより、バックアップ環境において低価格なストレージや既存の機器を使用できるため、ユーザー利用環境が変化しストレージ容量を増加する必要がある場合は、コストを抑えたストレージ増強が実現できる。今後、IoTなどデータ量の増大が予想されるなか、コストを抑えながらシステム整備・強化できることは大きなメリットになる。
価値
A社の事例で採用された、POWER8搭載のPower Systems(IBM i OS)+FlashSystem +SVCという構成は、日本初の構成であり、グローバルでも例を見ない革新的な構成である。本事例により、この構成がIBM i OSユーザー企業に多くのメリットをもたらすことが証明されたわけだ。 基幹系システムの劇的な高速化が、システム修正をすることなくハードウェア変更のみで行え、短期間でサービス利用ができること、さらには、情報システム部門の負担が少なくてすむことは大きなメリットと言えるだろう。
A社の事例のように、経営データを短時間で提供、分析時間短縮など企業経営に直結する業務のパフォーマンス向上をスピーディーに実現することができるからだ。
また、今回のシステム構成において、SVCの機能が非常に効果的に活用されていることもわかった。基幹系システム高速化に加え、運用工数の軽減、BCP対策、TCO削減など、情報システム部門がなすべき業務をカバーできるといったことだ。ハイエンドサーバーでのIBM i OSの利用を検討する場合には参考にすべきシステム構成であると言える。
プロジェクトマネージャーのコメント
お客様からの依頼であった基幹業務の課題について、解決に向け万全の体制でのぞみ、プロジェクトチーム全員が成功させようという強い気持ちがありました。
基幹業務に関わることだったためシステム移行は極限まで短時間にする必要がありました。最終移行を短時間で済ませるために使用したツールにトラブルがあり、リカバリー完了まで非常に緊張しました。しかし、計画を上回る短時間で移行完了し、エンドユーザー様や業務に支障を出すことがありませんでした。
CIOよりご丁寧な感謝の言葉をいただき、プロジェクトチーム全員大変ほっとしました(嬉しかったです)。プロジェクトマネージャーとして大きな達成感を感じました。
今回のプロジェクト成功の一番の要因は、CIOをはじめとしたお客様のプロジェクト関係者を中心に、日本IBM、IBM i (ミドルウェア)ベンダー各社や協力会社様、TCSという全ステークホルダーが、ぶれることなく計画通りに同じ方向を向きプロジェクトを遂行したことだと思います。 加えて、TCSの強みでもある日本IBMとの密な連携が、今回のプロジェクトのポイントであるIBMの先進テクノロジー(Power SystemsやFlashSystem)を利用した提案の実現を成功に導いたのだと思います。
TCS株式会社
産業事業部 IT推進 担当課長(取材当時)
清水謙一氏